【探偵調査員の奮闘日記】詐欺師を捕まえろ!

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探偵小説

こんにちは、うな探偵社調査部長の竹中です。

過去に行った調査をプライバシー保護のため、一部フィクションを織り交ぜてお話しします。

今回は、20年近く調査をやってきて1番大変だった調査のお話です。

調査はもうとっくに遂行したので達成感もありますが、未だ思い出すだけで頭を抱えたくなります…

対象者は最近SNSでフォロワーが伸びてきているという現役女子大生、キラリさん(仮名)でした。

依頼者はその母親、キラ母さん(仮名)です。

どうやらキラリさんのおうちはお金持ちのようでした。

 

キラ母

「娘には生活のためにカードを持たせているのですが、最近見てみたら、300万円をおろした形跡がありまして。

娘は昔からアイドルやなにかになりたいと憧れているふしがあるので、なにか詐欺にでも引っかかっているのではないかと思うのです。

私から聞いても逆切れするだけだと思いますので、怪しい人物や場所と関わっていないか調査してください」

調査のためにSNSアカウントも見せてもらいましたが、キラリさんは確かにかわいらしく、可愛く着飾るのが好きそうな様子でした。

 

キラリさんの行動、接触人物を確認する調査をすることが決まりました。

対象のキラリさんは大学生。

平日は学校があるということで調査は週末に行うことになりました。

依頼が土曜日だったので、来週の金土日、で接触した人物全員の身元を調べます。

詐欺ではなかったとしても、そうやってキラリさんの行動を見れば300万円の行方の想像くらいはつきそうです。

キラリさんは熱心にSNSを更新していたので、調査までは毎日それを確認することも日課になりました。情報は少しでも多いほうがいいからです。

 

キラリさんについての情報をまとめ、調査への準備は順調に進んでいました。

しかし、調査前の火曜日。キラ母さんから電話です。

「今日、できませんか」

電話がきたのは13時。

今日は大学が昼までだったから出かけようかな、というSNSを見ての電話だったことはすぐにわかりました。

しかしその日は生憎、他の調査が入っておりすぐに対応できる状態ではありませんでした。

それに、キラリさんがどこにいるのかもわからない状況で調査を開始するならば、調査開始時に本人が自宅か大学にいることに賭けて調査を始めるしかありません。

それでは、スタートしても、キラリさんが見つからず調査が無駄になってしまう可能性もあります。

居場所がほぼ確実に掴める金曜日から調査を行うのが良いと説得し、調査は予定通り週末に行うことになりました。

 

しかし、それが間違いでした。

「超警戒しています」

「これ、追えないです。まだ追いますか?」

調査当日。

朝から授業のため大学に向かうキラリを尾行する当班でしたが、想定外の事態で混乱の真っただ中でした。

都内で一人暮らしをしているキラリさんを、マンション下にてキャッチしたのですが、出てきた瞬間から周囲を見渡し、何度も立ち止まり、引き返しながら歩くのです。

これが警戒です。

探偵をしていると警戒している人を追うことはよくあることなのですが、警戒をする人というのはたいてい浮気をしていたり“悪いことをしている自覚”のある人です。

そういう人でもデートのときは警戒しますが、出勤や通勤する際にはあまり周囲を警戒しません。

この対象が警戒する可能性があるとしたら思い当たる可能性がひとつ、私には心当たりがありました。

竹中「大学までは歩いて10分程度だから、とりあえず登校するかだけ確認しよう。今日はもう顔も見られているし今後のことを考えるとそこまでしかできない」

まずは警戒の原因がわからないと解決ができません。

私は心当たりに電話をかけることにしました。

竹中「本日キラリさんの調査行っておりまして、予定通り本人は大学に登校したのですが、すごく警戒しているようでして。

打合せのときにはそういったお話はありませんでしたが、なにかお心あたりはありませんか?」

キラ母「すみません、以前竹中さんに断られたときに…」

調査を断ったあの日、依頼者のキラ母は諦めきれず他の探偵に依頼し、無事キャッチできたものの途中で巻かれて結局どこに行ったのかもわからず調査は終了したとのことでした。

別によそに頼んだからと怒ったりはしないので、そういった経緯があれば教えて欲しいものです。

警戒していることがわかっていればそれに応じた調査は行うことができますし、よそでもいいから決行したかったのならばせめて上手い探偵を紹介することくらいはできました…

後悔はこのくらいにして、調査はもちろん続行です。

今までも難しいケースはいくつもありました。

キラリの大学が終わる前に増員を要請し、改めて体制を立て直します。

よい方法はもう思いついていました。

キラリの今日の授業は3時まででした。一斉に大学生が校門から溢れ出てきます。

竹中「出たぞ。校門出て右折、駅方面。A、そのまま待機で本人キャッチして、Bはそこでストップ、C、駅で待ち伏せを」

調査員A,B,C「了解です」

私は大学近くのビルの屋上にいました。周辺に大きな建物はなく、大学周辺の道が迷路のように見渡せます。

ここから地上にいる3人をゲームのように操って、キラリを尾けることなく尾行していたのでした。

やはり想定通り学生たちの流れから外れて人気のない道をうろついていたキラリでしたが、その後は真っすぐ駅に入っていきました。

調査員たちも電車に乗り込み、長い週末が始まりました。

 

その日のキラリの予定は買い物でした。

何度も振り返り警戒する素振りを見せながら、何時間もかけて洋服を選び、誰とも接触することなく帰宅です。

洋服で何百万も使うような買い物の仕方でもないため、明日も朝から調査を決行します。

調査2日目。

キラリは昼過ぎに出てきました。

マンションから出てまず周りを見渡すのは習慣のようです。

調査員4人で交代しながら、未だやや警戒した様子のキラリを尾けていると、新宿に着きました。

調査員A「SNS、更新されてますね。“最近ストーカーがいてとても怖い思いをした”とあります」

どうやら探偵に尾けられているとまでは思っていないようです。

キラリは人気のない場所のベンチに座りました。

私たちは分かれて、その場所から動けば確実に通る道を各方向から張り込みます。

しかしそこを通り抜ける人数は少なく、初老のおじさんが単身で歩いて通りかかったとき、ピンとくるものがありました。

待ち合わせの相手はこの人だ。

勘は当たり、キラリはおじさん(仮名:男性A)と2人で出てきました。

キラリは昨日買った新しい洋服を着ておりお洒落をしてきたことは一目瞭然で、男性Aを見上げる表情は輝いています。

彼氏、なのでしょうか。

動き出した2人の警戒行動は、先ほどよりも格段にレベルアップしていました。

キラリと男性Aのデートを尾行することは、非常に骨の折れる仕事でした。

内容としてはゆっくり食事をして珈琲を飲んで、たくさんおしゃべりを楽しんだようなのですが何度も周囲を気にしながら、移動を繰り返すのです。

キラリはストーカーだと思っているのに人気のない場所に進んで行く巻き方に違和感を覚えていましたが、どうやらこの人がそういう誘い出し方を教えたのだろうなと感じられる行動でした。

二人はホテルにも行かず、夜8時には解散しました。

キラリと男性Aを二班に分かれて追います。

私は男性Aの帰宅先を判明させる班だったのですが、こいつは何が目的なのか電車で用のない駅に降りたり乗り換えたり、結果20分で着くはずだった駅に1時間半かけて到着しました。

そしてどうにか男性Aの乗るタクシーを追って辿り着いたのは、駅からすぐ近くの高級ホテルでした。

男性Aはチェックインなどをする様子はなく、まっすぐエレベーターに向かったので、一緒に乗り込んで部屋に入るところまでを見届けます。

キラリの逢瀬の相手、この某高級ホテルの32階に宿泊する男が明日の対象者に決まりました。

男についてわかっていることは宿泊先のみ。

調査3日目のスケジュールはこうです。

内偵班→男の名前や職業など、情報を探る

素行班→朝6時から帰宅まで尾行して行動、接触人物を探る

 

私はもちろん素行班なので朝6時からスタートしました。

警戒心が強い相手だということ、接触人物があればそちらも探りたいということで私が20年調査してきた中でも1番大人数の調査員が集まりました。

 

男性Aは朝から出てきました。

ホテルからほど近い駅前の珈琲ショップに入り、珈琲を注文します。

調査員A「あ、キラリさん…じゃない」

男性Aと同じテーブルに、キラリと同年代の少女Aがつきました。

フリルのついたミニスカートで、華やかに着飾っている姿がどことなくキラリに似ています。

2人は珈琲を一杯ずつ飲むと、動き出しました。

 

もう予想していたことですが、やはり男は周囲を気にする様子を見せます。

しばらくして2人が入ったのは、狭い貸し写真スタジオのようでした。

竹中「これは…依頼者の懸念が当たっている可能性もあるのかも」

2人は3時間程スタジオに籠った後、出てすぐに別れました。

2人の調査員が少女Aを追い、私は男の尾行を続行します。

 

男は電車に乗って新宿駅へと移動しました。

駅前で立っていたかと思うと、今度は少女Bが現れます。

今度もまた20歳くらいの女の子…2人はおしゃれなカフェで昼食を摂って別れました。

気になることといえば、男が少女にちいさな封筒を渡していたことくらいです。

 

男はどうやら今日はハードスケジュールなようです。このままでは何人の少女が現れるかわかりません。

調査員A「キラリさんも、今新宿に向かっているみたいです。もしかしたらまた会うのかもしれません」

SNSを見ていた調査員が言いました。

男は路地でしばらく電話をしていましたが、駅に向かって歩き出します。

男の今日の3人目の待ち合わせ相手はキラリでした。

2人は夕食を摂り、駅前でもしばらく話し込んだ後、別れます。

 

男が今朝と同じホテルに入るのを確認して、今日の調査は終了です。

早速、別班たちと調査結果の報告会が始まります。

「少女A、●●の一軒家に帰りました」

「少女B、職場と思われる△△に寄った後、隣のアパートに帰宅です」

「内偵の結果、男の名前は〇〇でホテルには2週間の連泊のようです」

 

別班と内偵班からの報告が揃い、依頼者に簡易報告です。

竹中「~~という感じでした」

キラ母「その男がお金を騙し取ったとしか思えません。仕事はなになのか、本当の家はどこなのか、調査してください」

竹中「では引き続き、明日も調査を行います。明日は月曜日なので、平日だと動きが変わるかもしれません。

あと、簡単にですがメールでここまでの調査の報告と、写真などもつけておきますね」

 

調査4日目も早朝から始まります。

調査開始から3時間ほど経った午前9時頃、依頼者から電話がありました。

キラ母「すみません。調査、もう大丈夫です。終了してください」

なにかあったのでしょうか。

話を聞くと、キラ母は昨日「引き続き調査を」と言ったのにも関わらず、昨晩深夜には男性Aの写真と名前を引っ提げて交番に駆け込んだらしいのでした。

すると調べると有名な詐欺師だったらしく、今日逮捕状を出せるので潜伏しているこのホテルに今日中に突入するそうなのです。

突然の幕引きとはなりましたがもう結果は出たということなので、男の泊まっている部屋の番号を伝えて調査は終了することになりました。

 

調査が終わったので撤収しようと車に乗って移動していると、またキラ母からの電話が鳴りました。

キラ母「警察が動くのが夜になるそうなので。詐欺師が出かけないか見張っていてください」

また、急遽、調査続行です。

しかし少しの間とはいえ既に張り込みから離れてしまっています。

もう既に男がホテルにいる確証はなにもないことを了承してもらった上で、我々はまた現場に戻り張り込みを再開することになりました。

 

それから約7時間後、夕方の17時。

ホテルに警察がやってきました。

我々の調査はそこで終了しましたが、ここまできたからにはあとは男が連れ去られていくまで野次馬として見届けました。

警察がホテルに乗り込んだ日から約2週間程が経った頃、キラ母と正式な報告書を渡すために会う約束をしました。

話は必然的に、あの騒動の後日談を聞くことになります。

キラ母「芸能事務所だと謳って、女の子を騙して稼いでいたようです。

私が行ったときには既に、被害届が6つ出ていたらしく、でも居場所を転々としていて見つからない状態だったらしく」

聞くと、被害者は皆SNSから勧誘されたそうです。
あのキラリの熱心に更新していたSNSを、詐欺師も見ていたのです。

竹中「キラリさんは大丈夫ですか?」

キラ母「キラリにはこの調査のことは言っていません。警察から連絡がきたことになっていて、少しショックだったようですが大丈夫かと思います」

私たちは調査の過程で、あの詐欺師が会っていた他の女の子の住所も知っていました。
その子たちが自分で被害届を出しているかはわかりませんが、その報告書も警察に届けることに決めました。

華やかな芸能生活に憧れて、着飾ってあの男に会っていた女の子たちを思い出すと悲しくなります。


            おわり

 

~実話~

子供を心配する親御さんからのご依頼は特に多いです。

                    調査員A

 

Supervisor Information

監修者情報 | 金子 玄

慶福法律事務所代表

【出身大学】
慶應義塾大学法学部法律学科・大学院法学研究科修士課程を修了

【経歴】
平成19年 弁護士登録後、複数の都内法律事務所に勤務
平成25年 慶福法律事務所設立

【所有資格】
弁護士(識別番号36627_第一東京弁護士会)・図書館司書資格

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