こんにちは、改めましてうな探偵社調査部主任の竹中です。
前回の調査のお話が好評だったということで、またお話させていただけることになりました。
次にお話する調査は数年前に行われたもので、対象者は16歳の少年でした。
この少年はいわゆるやんちゃ系な性格らしく、髪色は金に近い茶髪で、16歳ですが学校にも行っていないということでした。
依頼者は、そんな息子を心配する母親です。
息子は学校にも行かず、毎日のように遊びに出かけているらしく、
・外でいったい何をしているのか?
・悪いグループに入っているのではないか?
・犯罪などに巻き込まれているのではないか?
外での行動や仲間などを把握して、悪いことをしているのなら更生させたいという親心からの依頼でした。
さて、調査当日です。
対象者を少年Sとしますが、少年Sのお家は東京近県の閑静な住宅街にありました。
今回も、調査員A.Bと3名での調査に挑みます。
調査員A「少年S宅、袋小路で人通りもなさそうですね…」
竹中「そうだな。さっき歩いて確認したところ、少年S宅から出るとこの道を歩いて突き当りを右か左に曲がるしかない。曲がった先はどちらも大きめの道だから、そこなら張り込めそうだ。手分けしてそこで押さえよう」
調査員B「わかりました。車も近くに待機しています」
探偵メモ⑮
袋小路や人通りのない住宅街では、目立ってしまうため張り込みをすることが難しい。
なので対象が家を出ると必ず通る道を把握し、それを手分けして全て押さえることで対象をキャッチする。
少年Sは午前中から動き出しました。
依頼者である母親から写真を何枚かお借りし、各々が自分の持ち場を通る通行人を一人一人、少年Sではないか確認します。
調査員A「出ました。少年Sです」
竹中「了解。右折ってことは駅のほうだな。一応確認しに回る」
探偵メモ⑯
対象者の確認というのは慣れた探偵でも非常に難しいものです。
キャッチしたのが本当に対象者かどうか、複数人で確認を行います。
私は少年Sの進行方向まで先回りし、少年Sを確認しました。
髪をオールバックに固め紫色のスーツ、一見ホストのような格好ですが、本人です。
調査員A「派手ですね。悪い友達と合流して、六本木のクラブにでも行くのでしょうか」
竹中「そうだな。上りの快速電車に乗ったら、車は高速道路で先に東京のほうに回してくれ」
調査員B「了解です」
こんな打ち合わせをしていましたが、少年Sが乗った電車は想定外に下り電車でした。
どんどん都会から離れていきます。
調査員A「どこに向かっているんでしょうか」
竹中「さあ…。あ、降りるな」
少年Sは数駅下った、寂れた駅で電車を降りました。
少年Sは寂れた駅で電車を降りると、一人で駅前の喫茶店に入ります。
調査員A「なるほど、地元周辺の不良仲間と合流してから都会に繰り出すつもりですね」
調査員B「中入って確認しましたが、抜道はありません。出入口は正面のみです。ここで待ち合わせのようですね」
少年Sは一番奥の席に座り、出入口のほうを向いてただ座っているようです。
1時間後、少年Sはまだ出てきません。
それらしい人物、どころか喫茶店に入店した人数すら多くない状況でしたが、意外な人物と店内で合流している可能性もありうると一度店内を確認します。
調査員A「少年S、変わらず一人で座ってますね。コーヒーにも手をつけずにこっち(出入口)のほう見てます」
竹中「待ち合わせの相手が遅れているのだろうか。とりあえず、引き続き出入口マークでいこう」
しかし、待つこと2時間…3時間…少年Sが動く様子はありません。
少年Sが喫茶店に入って6時間が経過し…辺りは暗くなってきました。
もう夕方です。
調査員A「少年S、午前中からもう6時間待ってますよ」
調査員B「もうすっぽかされているんだから、早く帰ればいいのに…」
つまらないことを話していると、少年Sと同年代の一人の少女が現れ、喫茶店に入っていきました。
上下スウェットスーツ、茶髪の綺麗なロングヘアのかわいらしいヤンキー娘です。
調査員B「この子じゃないですか?顔の写真ばっちり撮れました!」
竹中「可能性は高いな。少し時間を置いて確認しに行こう」
店内の様子を見に行くと、少年Sは満面の笑みで少女を迎え入れていました。
彼女か?それにしてもよくこんなに長い時間待っていられるな、と大人の汚い心がよぎります。
少女Sと少女はすぐに喫茶店を出て、楽しそうに会話をしながら歩きだしました。
待ち人はこの少女で間違いないようでした。
調査員A「このまま二人でデートでしょうか。悪いことではないですが、あまり夜遅くまでデートというのもお母さん心配ですね」
竹中「でもこのままここらでデートなら、依頼者のしていた犯罪などの心配はなさそうでよかった」
待ち人が少女であったことがわかり、少しほっとした調査班ですが、まだ真実はこれから。
気を引き締め尾行を開始します。
二人は待ち合わせをしていた喫茶店を出て、駅前のドラッグストアに入りました。
少女が日用品や化粧品などを見て、少年はそれをやさしい笑顔で見つめているようでした。
なるほど少女の格好もラフだし、これから少女の家に行っておうちデートでしょうか。
30分ほどでドラッグストアを出ると、2人は住宅街の方に向かって歩きます。
思った通りだな、と追っていると2人はコンビニエンスストアの前で別れたようでした。
竹中「少年Sだけコンビニに寄るようだな。私は一応少女を追うから、少年Sを頼む」
調査員A「了解です」
少女はコンビニからほど近くの一戸建て住宅に入りました。
確認すると、少年のほうはまだコンビニにいるようでした。
竹中「着替えてから、また合流して遊びに行くのかもしれない。待っていた相手はこの少女で間違いなさそうだし、このまま二手に分かれたまま2人ともマークしよう」
しかし、予想に反してまた1時間…2時間…と時間が過ぎました。
住宅街にあまり長い時間立っていると近隣の住民に怪しまれるので、私も少年Sのいるコンビニに移動することにしました。
竹中「お疲れさま。少年Sは2時間もコンビニで何をしているんだ?」
調査員B「ずっと雑誌コーナーで立ち読みしているようなんです」
いったい何をしているのだろう。二人の関係は何なのだろう。
不思議に思いながら少年を見張りますが、少年はただ立ち読みをしながらまた何時間もなにかを待っているようでした。
待つこと数時間…夜中の3時になり、ようやく先ほどの少女が現れました。
格好は同じスウェットのままです。
やはり少年Sの待ち人は少女で間違いないようで、少女が現れると少年Sはとても嬉しそうにコンビニから飛び出していきます。
少女は手に持っていた袋を少年Sに手渡しました。
少年Sは受け取った袋から2つのおにぎりを取り出すと、とてもおいしそうに頬張ります。
それもそうです、少年Sは家を出てから待つばかりで、食事を摂るところを私たちは見ていません。
2人はおにぎりを食べながら、コンビニの前で30分程楽しそうに話し込んでいました。
しかし少女は少年Sに手を振ると、また自分の家のほうに歩き去ります。
少年Sはそれを見送ると、再びコンビニに入り、雑誌の立ち読みを始めるのです。
少年Sは、また少女が戻ってくるのをコンビニでずっと待とうというのでしょうか。
そのまま朝8時を迎えたところで、依頼者である母親から「もういいです」という連絡が入りました。
依頼者が終了してほしいというのに、勝手に調査を続けることはできません。
なおもコンビニに居座る少年Sを残して、調査は終了することになりました。
この後少年Sがどうなったかはわかりませんが、現場で少年Sを見ていた私は少年Sの純愛をとても強く感じました。
本当に悪い子なんかそうそういないのだなと、思いながら調査を終了して家路につきました。
~実話~
対象者に怪しまれないことは当然ですが、近隣の住民への配慮も必須です。
調査員Y